日本語指導
小中学生対象「オークラ式」指導法 2009年5月


                第54回

             「読むこと」と「読解」

          「読む」ために脳はどんな活動をしているか。
           読む力を鍛えるにはどうしたらよいか。
         

■読むために行っている脳の活動
  読むのが上手にならない。読めるのに理解していない。よく聞く話です。
 この問題を考えるために、読むために私たちの脳はどんな活動をしているか
 考えてみましょう。

  @文字を見て文字か記号か、はたまた文字ではないかを判断する。
     それには文字を知っていなければいけません。
     かぎかっこ(「 」) の記号を見たとき、それが文字ではなく人の言葉を
     囲む記号だと知らなければ、何と読むのだろうと考えて、先に進めませ
     ん。読みをスムーズにするため、ひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字など
     の文字の力と「  」 、 。 などの記号の知識は不可欠です。

  A文字をつなげて「音」にしてみる。
  Bつなげた音を単語として認知する。
     「と」「け」「い」と一音一音、頭の中で発音し、「ああ、時計か。」と納得し
     ます。声には出しませんが、頭の中では瞬時にこのような作業をしている
     わけです。

  C単語を文脈の中で確認する。
     「と」「け」「い」という文字の連なりが「時計」だと分かっても、まだ安心は
     できません。「あれからあなたと私の時計は止まったままだった。」という
     文では「時計」は単なる時を刻む機械ではありません。文脈に即して時計
     の意味を選択しなければいけません。語彙の豊かさがとても重要になって
     きます。

  Dその単語を記憶する。
     瞬時に文字を読み、単語として認識し、意味を捉まえたとしてもそれで
     終わりではありません。文というのは単語が10も20も連なってできて
     います。@〜Cの作業を10も20も繰り返さないといけないのです。
     最初の単語の意味を特定したら、それを記憶しておいて次の単語の意味
     の特定に取り掛かり・・・といった作業を記憶の糸でつむぎながら進めない
     といけません。

   E単語のつながりから意味を理解する。
     つないでおいて、ようやく「文」として何を言っているのか、「文としての
     意味」を考えることができます。ここでは「文法・文型」の知識が必要です。

   もし、これに「音読」という作業を付け加えるとしたら、さらに次のような作業が
   加わります。

   F上記@Aが終わったところで口と声帯を動かせという指令を脳が送り、
    単語を次々と発音していく。

  やれやれ。読むまでにこんな複雑な作業をしているのです。
  私たちは、子どもに文を読ませるとき、子どもがこんな苦労をしているのだという
  ことを知って指示してあげないといけません。
     ・文字力はどうか
     ・語彙はどうか
     ・文法文型の知識はどうか
   これを知っていれば、子どもに文を読ませ、読み終えてすぐに書かれている
   内容について質問をするなどということは恐ろしくできないはずです。

     ●文字認識の負担を軽減し、文の意味を理解するために、力を集中
      させるため、読ませる文は知っている文字で書いておく。

        漢字にいくらふりがなをつけても同じ。文字が目に飛び込んだ瞬間
        ルビより漢字の方に目が行きます。私の教材はほとんど「ひらがな」で
        書き表してあります。その理由はここにあります。

     ●記憶の負担を軽くするために、単語の数を少なくする。
        慣れない日本語の単語をいくつも覚えておくことはできません。
        まずは、1文5語以内にしてあげましょう。
   
     ●瞬間認識力と記憶力の強化を図る
        単語の数を少なくしておく一方で、数を増やすための指導もしなけれ
        ばいけません。それには単語カードを数枚パッパッパッと見せ、何が
        書かれていたかを瞬時に認識させ、それを短時間記憶させておくと
        いう練習が最適です。
         【例】「わたしは」「ほんを」「かった。」という3枚のカードをフラッシュ
            カードの要領で見せる。見せたあと、何が書かれていたかを
            言わせる。慣れきたら、「わたしは」「ほんをかった。」というよう
            に、一度に読み取る単語数を増やしていく。

  これにより一瞬で文字を認識する力と把持しておく力を少しでも鍛えることが
 できるはずです。試してみてください。




                       第53回

             「瞬間記憶力」の有無

         単語を一つずつ確認してみると分かっているのに
         文になると分からない…そんな子がいますよね。


■これには3つの原因が
   1つは「文型・文法力」の不十分さです。
  これは「文型」指導をすること、ちょっと難しい文型を使って話しかけたり
  難しい文を読ませたりすることで徐々に解消することができます。
  もう1つの原因が、内容が高度で一度聞いたぐらいでは意味がわから
  ないというものです。これは、例を挙げたり図解したりして解説しなくては
  分かりません。日本語の問題というより、理解力の問題です。
  3つめの原因が、外国語に対する「瞬間的な記憶力」が育っていない
  ことです。こちらの方は、生徒本人も周りも気付いていないため、あまり
  「指導」されることがありません。今月は、この問題にスポットを当てて
  その指導法についてお話ししたいと思います。

■瞬間的に単語を記憶に留めておけないと

  ●文末の言葉は覚えていても
    前の単語を覚えてはいません。だから、文として記憶に残らず、何を言って
   いるのかが分からないのです。日本語を学び始めた子が、人の言葉のマネ
   をすると、文末の語しかマネしないのも、これと同じ原因です。要するに、
   多少、日本語が分かるようになったぐらいでは、個々の単語は記憶に留め
   ておくことができるほど「馴染んで」いないということです。


  ●「お馴染みさん」になるまで待てない
    本来なら、その言葉が「お馴染みさん」になれるまで待ってあげればよい
   のですが、一刻も早く学校生活に慣れなくてはいけない子ども達には、
   そんな悠長なことは言っていられません。
   
  ●意識させることで
    では、どうしたらよいのか。大切なのは、文を記憶に留めておこうという
   意欲です。記憶しようという気持ちの有無が瞬間記憶力の獲得速度を
   大きく左右します。しかし、「意欲を持て!」というのでは【指導】ではあり
   ません。では、どうやって意欲を持たせたらよいのでしょうか。残念ながら
   意欲を持たせる≪特効薬≫はありません。しかし、次のような≪特訓≫と
   組み合わせることによって、多少の効果はあがります。

  ●どんな特訓を?
   さっそく「特訓」をご紹介しましょう。
   特訓の第1段階は、「分割復唱」です。教師が話した短い文を、話す後から
   復唱させていく方法です。
     【復唱させる文の例】
      「きのう校庭で拾ったボールは、おととい弟が、野球をしていてなくした
       ボールだった。」
      教師は、句点ごとに区切って子どもに復唱させます。つまり、子どもが
      復唱するまで教師は待ってやるわけです。
   第2段階が「全文復唱」です。教師は句点で区切らず、一気に全文を読みま
   す。子どもは教師が読み始めたら、すぐにそれを追うようにして復唱していき
   ます。子どもは、「きのう校庭で」を聞いて復唱しながら、同時に次の「拾った
   ボールは」を聞いていないといけません。実際の会話では「聞く」と「理解」と
   とを同時に処理しなくてはいけません。2つの作業を同時並行して行うことに
   慣れさせなくてはいけません。これは「並行処理力」を磨く1つの方法です。
   第3段階は「間置き全文復唱」で、全文を聞かせた後で、復唱させる方法
   です。慣れてきたら、聞いてから復唱をさせるまでの「間」を少しずつ空けて
   いきます。

   この特訓は、文の内容を理解することではなく、あくまでも単語を、そして、
   文を記憶する練習ですので、内容を問うようなことは、あまりしない方が
   よいでしょう。




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